台風11号(ハイクイ)から変わった低気圧の影響で香港は9月7日夜から8日にかけ、12時間で400ミリ以上の雨量を記録するほどの豪雨に見舞われました。各地で冠水しショッピングモールや地下街などでは浸水被害が出ました。特に7日の夜22時から8日0時にかけては1時間に158ミリを観測し、瞬く間に道路が冠水しました。1時間の雨量としては1884年の観測史上最大となりました。
香港天文台は、7日午後11時5分に大雨レベル最大の警報「黒雨/Black Rain」(1時間に70ミリ以上)を発令し、翌8日午前5時57分まで続きました。8日は香港内の学校は全て休校、政府機関の窓口業務は停止、公共交通機関は運休、証券取引所も8日は取引が終日停止となりました。
そして8日は「極端情況(extreme condition)」が発令され、エッセンシャルワーカー(必要人員)以外の労働者は安全確保を優先し無理に通勤する必要は無く、雇用主も出勤を要求すべきではないと注意が呼びかけられました。「極端情況(extreme condition)」は2018年香港に大きな被害をもたらした台風22号(Mangkhut/山竹)の後、2019年6月に追加された新しい就業ガイドラインで、発令されたのは今回が初めてでした。
今回の豪雨で、冠水した道路や駅などの復旧作業は着々と進んでいますが、各地で土砂崩れが起きています。もともと香港は4月頃から10月頃まで、春先から秋口にかけて雨季です。台風や大雨に対しての政府の反応も非常に早く、台風が近づくとシグナルの発令はもちろん、発令時間の予告、取り下げ時間の予告までテレビ等で繰り返し伝えられます。それでも今回の豪雨は急に猛烈な雨が降り出し、出勤などで外にいた人は瞬く間に身動きが取れなくなってしまいました。
今回の香港の記録的豪雨も、140年に一度と言われていますが、今後はこの規模の大雨にも対応できる準備をしておいた方が良いかもしれません。世界規模で異常気象が発生している中、あらゆる状況を想定して防災意識を高めておきましょう。
日本は台風と地震という天災が毎年のように起こっていますが、人々の認識の中で香港は地震がないと言われています。確かに香港の地盤は硬く、またプレートの位置関係から香港は地震帯(造山帯)を通っておらず、火山も温泉もありませんので、香港の直下型地震が起こる可能性はほとんど無いと考えられています。そのため「香港は地震が無い」と言われていますが、体感しないレベルの地震は年に何度か起きており、時には体感できるほどのレベルの地震も発生しています。香港天文台が1905年の観測以来、香港での有感地震は179回、1979年以降では70回起こっています。平均すると1年に2回ほど体に揺れを感じる地震が起きる計算になります。これらの多くは台湾や中国内陸部など、香港以外を震源地とする揺れの余波でした。近年で最大の地震は、台湾海峡の南が震源地だった1994年の地震で、当時香港では多くの人が揺れを感じました。
香港は直下型の地震が全く起こらないかというと、確かに可能性は非常に低いと思われますが、この時代において完全に無いとは言い切れません。少なくとも香港の近くを震源地とする地震では香港もそれなりに揺れるということは覚えておきたいところです。今回の豪雨のように、これまで100年を振り返っても無かった自然災害が起こり得るとすれば、香港で今までに無かった規模の強い揺れが起こる可能性もあります。
これまで香港の建物は、地震は無い前提で建築されていたため、耐震機能はほとんど考慮されていませんでした。古い建物を見てみると、建物の上の方に無理な増築がされているなど、耐震性から見ると非常に不安な作りをしています。2010年1月には当時築50年の5階建ての集合住宅が急に倒壊したこともあります。移民が大量に香港へ流入した1950~60年代に建てられた同じようなビルは香港の下町に今も多く残っています。近年建てられたビルは、昔と違って耐震機能も充実しており、安全面で信頼できるようになっています。
防災意識についてはどうでしょう。香港市民は台風への備えは慣れており、台風が来た時の行動はスムーズです。台風が近づくと政府はシグナル(3、8、10,11)を出し、シグナルの段階によって学校が休校になり、従業員は出勤か自宅待機かを判断できるので非常に明確です。日本では今も台風でもとりあえず出勤するという風潮が根強くあるので、移動手段がある限り台風でも出勤し、安全確保は自己責任で管理する必要があります。近年は鉄道などの公共交通機関が計画運休をするようになっただけでも改善されたと言えます。
また香港では台風の前には必ず買い出し、買いだめをして台風後の物流機能の回復まで困らないように準備をします。香港人は元々、住環境と買い物の利便性から、普段はあまり家に備蓄をする習慣がありません。特に食材は新鮮さを重視する点からも、長期保存は好みません。しかし、今後は台風の時に限らず、急な天候変化や何らかの要因で都市機能がストップしても困らないように、水や食料、電池など最低限の備えがあると暮らしていく上で安心かもしれませんね。