円安と給与水準

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円安と給与水準

昨年からの急激に進んだ円安は、今年に入って130円を超えてから緩やかに高水準をキープしています。現在も140円を超えている状態がしばらく続いており、円高に転じる気配が感じられないばかりか、この円安がさらに進む可能性さえあります。せっかく海外旅行が解禁となっても諸外国に比べ日本人があまり海外旅行に出かけなくなった理由の一つが円安です。香港ドルと米ドルは連動していますので当然、香港へ行く日本人観光客も以前ほどには戻ってきていません。

香港に限らず海外旅行から日本人が遠ざかっている要因はもちろん円安以外にもあります。この3年半の間に海外旅行をする習慣がなくなった、パスポートの有効期限が切れた、ペットを飼いはじめた、レジャーが国内旅行やキャンプ等にシフトした、海外の新型コロナウイルスの状況に不安がある、なども挙げられます。一時は県を跨ぐことすら躊躇われたコロナ禍の頃から比べれば、日本国内を自由に移動できるだけでも旅の開放感や満足感が得られます。それに日本人の多くは昨今の相次ぐ物価の上昇によって家計が圧迫されており、上がらない賃金と増税によって、コロナ前よりも可処分所得が減っているのも海外旅行から遠ざかっている理由と言えるでしょう。

中国政府は8月10日、日本への団体旅行を解禁すると正式に発表しました。遡ると新型コロナウイルスが出始めた2020年1月に団体旅行が禁止となってから約3年半ぶりの解禁となります。中国からの訪日観光客がピークを迎えていた2019年頃のような活気が戻り、日本経済を刺激することが期待されています。人民元と円のレートも2019年当時が1元=15円ほどだったのに対し、現在は1元=20円前後となっていますので、対人民元も引き続き円安傾向にあります。インバウンドの中心は約1億人ともいわれる中国の富裕層で、日本が中国人にとってコロナ後も変わらず人気の旅行先であるのは間違いなく、中には家電やレジャーに留まらず日本の不動産を買い求めるケースも今や珍しくありません。ただ、日本で見かける中国人観光客は決して平均的な中国人ではなく、広い中国では都市部と農村部でも随分と収入格差があることは事実です。また中国経済はデフレ傾向にあり、世界的なインフレとは少し違った動きを見せています。

日本の厚生労働省の審議会は今年度の最低賃金について、全国平均を時給換算で41円引き上げ、961円から1,002円とする目安を定めました。物価上昇を踏まえた引き上げ額ですが、これは過去最大の上げ幅であり、1,000円の大台に乗りました。雇用側の企業は苦しい経営状況の中で人件費を上げなければならなくなり、原料費の値上げに加え人件費の値上げに頭を悩ませることになりそうです。

日本は「失われた30年」の間ずっと物価も給与も横ばいでしたが、その間に諸外国は着々と成長を遂げ、物価の上昇と共に賃金の上昇も右肩上がりに伸び続けています。香港の最低賃金は2023年の5月1日より時給40香港ドルとなりました。ここ10年ほどを振りかえってみても、2010年に28香港ドル、2013年に30香港ドル、2015年に32.5香港ドル、2017年に34.5香港ドル、2018年に37.5香港ドル、そして2023年に40香港ドルとなり賃金の上昇は続いています。香港の新卒の給与も現在は大卒であれば16K、事務職などは16~20K、主任など役職がつけば25K~が相場となります。

香港で働く日本人も、普段は香港ドルで稼いで香港ドルで消費しますが、日本への一時帰国などで香港ドルを円に両替する機会には香港人同様に円安の恩恵を受けやすい存在と言えます。香港現地採用で働く日本人の給与水準は、業種や業界によって、あるいはその人の経歴やスキルによって一概には言えませんが平均的な目安は営業職20K~30K、事務職18K~25K、管理職30K~、専門職30K~が現在の相場です。これにダブルペイやボーナスがありますし、日本のように給与から天引きされるのはMPFくらいなので手取り額は日本で働くよりも多く受け取れると感じます。ただ香港の場合は毎月の家賃が支出の中心となり、物価も今や日本より高く、年一回の所得税の納税が必要となります。

中国本土は前述した通り地域差があり、最低賃金の水準も地方によって異なります。最低賃金は定期的に見直しされており、大都市の上位3エリアは月額で上海市が2960元、北京市が2320元、広東省が2300元となっています。日本に比べると人件費が安いと感じるかもしれませんが、多くの日本企業が中国へ進出し始めた2005年あたりが月額600元~800元だった時から思えば、人件費はこの20年弱で4、5倍にもなっています。日本の製造業は中国に続いてマレーシア、タイ、インドネシア、インド、ベトナム、フィリピンなど人件費の安さが魅力的な国へとシフトして来ました。今や各国の経済成長は目まぐるしく、世界へ出て行った日本の製造業が、中には人件費の安さから日本に戻って来ているケースもあります。人件費が安く、日本人が求めているクオリティを実現し、輸送コストもかからない、為替リスクも負わない、というのは国際社会の中で遅れを取りつつある日本にとって理にかなった選択と言えるかもしれません。