ここ最近の香港では、レトロ感を活かしながら今の時代に融合するような流れが見られます。これまで香港といえば、派手なネオン看板で埋め尽くされた街、老舗の飲茶楼、雑居ビルというイメージでした。かつての香港を象徴するものは、時代の流れと共にいつのまにか“古くさい”と思われるようになり、老朽化した建物が取り壊されては高層マンションに建て替えられ、近代化を進めてきました。しかし最近では、古き良き物が逆に香港らしさとしての価値を持ち始めています。2026年の香港では、レトロ感を今の若者文化や観光体験などと組み合わせ、新しい都市のイメージを作ろうとする動きが見られます。香港は最先端の未来都市を目指すのではなく、これまでの香港の魅力をこれからの未来にどう繋げるかを模索しているようです。
老舗のパン製造会社「Garden(嘉頓)」
香港で育った人なら誰でも知っている定番ブランドの「Garden(嘉頓)」は、食パン、ビスケット、クラッカーなどで有名で、香港の味として多くの人に親しまれています。2026年5月、Gardenは創業100周年を前に、大型ポップアップイベント「Every Bite Tells a Story」を旺角にあるランガムプレイスで開催しました。会場内は「Garden工場ツアー」をテーマにしたレトロ空間になっており、昔のパッケージデザインや復刻商品、巨大フォトスポット、限定グッズなどが並びました。このイベントはGardenの歴史を振り返って懐かしむだけではなく、ローカルストリートブランドとのコラボ、レトロデザインの再利用、SNS映えする展示、限定フード企画など若者向けに構成されており、身近にあったGardenブランドがあらためて再評価されました。
老舗の飲茶楼「蓮香樓」が “ディムサム・レイブ”を開催
この流れは飲食業界でも起きており、香港の老舗飲茶楼「蓮香樓」が、DJイベント付きの“ディムサム・レイブ”を5月9日に開催しました。歴史ある飲茶店の店内にミラーボールと電子音楽が持ち込まれ、お馴染みの點心(蝦餃子、焼売、叉焼包)などを楽しむというユニークなイベントでした。「北上消費」の影響で客足が中国本土に流れ、香港の老舗レストランは閉店が相次ぐ中で、若年層の来店を促す目的で今回のイベントが開催されました。伝統文化とナイトカルチャーを掛け合わせた試みは斬新で、メディアからも注目されました。オーナーは「次世代に伝統文化を伝えたい、飲茶は年配者だけではなく若者も楽しめるものだと知ってほしい」とコメントしています。香港の飲茶文化は家族の集いという面があり全世代が親しんでいるものですが、やはり全体的には高齢者の割合が高く、今後も飲茶文化を残すため現代的にアレンジするという今回の発想はとても高評価でした。
観光も体験型へ
観光も大きく変わってきています。以前の香港旅行といえば、ブランド品の購入、高級ホテル、夜景観光がメインでした。しかし最近では「体験」が重視されてきています。報道によると、2026年1月~3月の訪港者数は1,431万人となり、前年同期比17%増を記録しました。観光の内容では「レトロ香港体験」「ローカルフード」「アートイベント」「ナイトカルチャー」「自然観光」など、体験型が際立って人気です。自然観光は急速なブームになっており、観光エリアは混雑に対応が追い付かず、各地でオーバーツーリズムが問題になっています。このゴールデンウィーク期間中も香港の郊外にある自然観光スポットが観光客で過密状態になりました。これまで地元の人しか訪れなかった西貢エリア、香港島の周遊トレイル、海岸のハイキングコースなどは、SNSなどで紹介されて人気が急騰し、インフラ整備が追いついていない状態です。
お土産も「香港っぽさ」が人気
最近ではお土産にも変化が見られます。以前の香港では人気のお土産と言えば、高級ホテルのチョコレート、ブランド品、定番の缶入りクッキーなどでした。しかし最近は「香港らしさ」を前面に出したグッズが次々と登場し、観光客に人気があります。例えば、ネオン看板風のキーホルダー、ミニバスの行き先表示、エッグタルトやミルクティーなど茶餐廳のメニューをモチーフにした雑貨、香港の絵柄トートバッグ、GardenやVitasoy(維他奶)の復刻デザイン商品など、香港の日常を切り取った雑貨が人気です。若者たちには高級感よりもローカル感や生活感のあるアイテムが好まれ、香港らしさが新しい観光資源となり始めています。
また、昔ながらの公共住宅や古い商店街をモチーフにしたアート展示、ミニチュア作品も人気を集めています。ネオン看板など、消えゆく香港をテーマにした写真集やポスターは若い世代にも支持されており、古き良き香港の風景を残したいという空気が街全体で強まっています。今の香港は伝統を現代風にアレンジして新しい香港を作り出そうとしています。こういった動きは昔の香港を知る人たちには懐かしく、若い世代や旅行者には新鮮に映ります。香港は、懐かしさと新しさを併せ持つ未来都市へ変わり始めていると言えるでしょう。