先週の台風22号(銀杏/YINXING)に続いて、今週は台風23号(桃芝/TORAJI)が香港に接近しました。台風一過もつかの間、秋の台風はまだ続いており、台風24号(萬宜/MANYI)と台風25号(天兎/USAGI)の進路が気になるところです。例年であれば11月の香港は晴れの天気が続き、蒸し暑さも落ち着いて過ごしやすい観光ベストシーズンですが、今年は11月に入ったにもかかわらず続けて台風に見舞われています。
ご存じのように香港は台風が発生すると気象庁(天文台)からシグナルが発令され、その段階によって公共交通機関がストップしたり、学校が休校になったり、会社が休みになったりします。商店や観光地も臨時休業となります。日本の注意報や警報に比べると、このシグナルによる基準は非常に明確で、台風時の行動を判断するのにとても役立ちます。例えば会社勤めの場合、シグナル8が発令されていれば、出社せず自宅など安全な場所で待機となります。実際に外の様子を見て、たとえ雨風がそれほど強くないとしても、天文台からシグナル8が出ている間は待機すべきなので、個人も会社側も判断に迷う必要がありません。そしてシグナル8が解除になれば何時間以内(多くの企業は2時間以内)に出社すれば、欠勤扱いにならないと就業規則に定められています。旅行者の場合も、せっかく旅行で来た香港で時間を持て余すのは残念ですが、台風の中を無理して外出せずホテルなど安全な屋内に滞在するようにし、台風情報の収集につとめましょう。
香港は世界有数の観光都市で、香港経済にとって観光産業は大きなウェイトを占めています。コロナ禍を経て、香港政府観光局は一層香港への観光客誘致に力を注いでいます。そんな中で、香港国際空港の3本目の滑走路が11月28日より正式に運用されることが発表されました。これにより年間1億2,000万人の旅客と1,000万トンの貨物の処理が可能になります。これに先立ち11月17日にはオープンを記念して第3滑走路での市民マラソンも行われます。さらに第二旅客ターミナルも拡張され2025年末までに段階的に運用が開始される予定で、空港を利用する観光客の増加に一層期待が高まっています。
香港は老若男女問わず一人旅から富裕層まで、あらゆる観光客が楽しめる場所です。最近は中東からの旅行者に対するサービス向上を目指しており、アラビア語圏の人々に応対するためタクシードライバーがアラビア語を積極的に勉強しています。空港や観光地で目にする案内表記もアラビア語併記が増えてきました。
中東、東アジアのイスラム国家はもちろん、フィリピン、マレーシア、インドネシア等の東南アジアにもムスリムは多く、最近は「高所得のムスリム」の人口が増えています。多国籍社会の香港には、これまでもムスリム向けのハラール認証レストランはありましたが、それは香港に居住している一部の人が利用するに過ぎませんでした。しかし最近はムスリムの観光客を意識した、ハラール対応が可能な場所が増加しています。世界的にもハラール食品、ハラール認証の飲食店、観光地へ礼拝所の設置、ハラール対応施設などムスリムに関連する市場は急成長しており、新たなマーケットとして今後さらに注目されていくでしょう。
観光業の発展の一方で、香港では新たな産業も生み出されています。先日の行政長官による施政方針演説にもあった「低空経済」の発展へ向け、香港政府は本腰を入れています。「低空経済」は近年中国本土で聞くようになった言葉で、2023年3月の全人代において今後積極的に発展させる分野の一つとして「低空経済」が取り上げられました。「低空」は高度1000メートル以下のことで、航空と地上の間にある低空領域を指しますが、物理的なその領域のみならず、それに関連したビジネスモデル等を含めて「低空経済」と言います。具体的にはドローンなど無人航空機による配送、測量、建物のメンテナンス、航空写真・映像の撮影、イベント等でのパフォーマンス、遭難者の捜索救助、それから空飛ぶタクシーと言われる電動垂直離着陸機(eVTOL/イーブイトール)などがあり、香港でも試行プロジェクトが来年から早速スタートします。
中でもeVTOLは中国本土でも急成長している注目の分野で、低空経済の最前線とも言えます。eVTOLはElectric Vertical Take Off and Landing aircraftの略で、電動モーターで複数の回転翼を回転させ、垂直離着陸できる小型航空機を指します。 ドローンと電気自動車の技術を融合した、次世代の輸送手段として注目されています。ヘリコプターのように垂直に離着陸でき、滑走路は不要、二酸化炭素の排出量も削減し、電動化により騒音も小さいのが特徴です。eVTOLの登場により、低空領域における通勤、観光、輸送などに新たな可能性をもたらすことが期待されています。中国本土では深セン市をはじめ、いくつかの都市において試験的に低空経済の行動計画や政策が打ち出されてきました。それに伴い新たな法整備も進められています。香港でも着陸地点や充電ステーションなど、低空活動を支援する施設の建設も検討しており、香港政府は関連する規定の改正、低空越境ルートの共同建設などを中国本土と協議する予定です。