先般、大埔で起こった大火災の翌日(11月27日)から中止されていた光のショー「シンフォニーオブライツ」は、12月10日より再開されました。また、中環でも中止されていた「ウィンターフェスタ2025」のライトアップも同日より再開されました。香港の人々と心をひとつに、皆様にとって温かいクリスマスになりますようお祈り致します。
今回の報道で世界中に知れ渡った香港の「竹製の足場」について、一部の海外メディアでは火災の延焼原因ではないかと取り上げられ、誤解を招くような報道もありました。これについて香港では個人や団体からSNSなどで世界へ向けて、正しい理解を求める発信が見られました。
香港にあまり馴染みがない海外の方々にとっては、先進都市の香港で竹製の足場を使用していることは意外だったかもしれませんが、香港の環境に適しているからこそ現代に至るまで使用されていた背景があります。竹の足場「竹棚」は広東省から香港へ広まった建築技術で長い歴史があり、イベントなどの会場設営から高層マンションの建設まで、香港では様々な建築現場において使用されています。竹や金属など素材を問わず、足場を組むことを「搭棚」「築棚」と言いますが、香港では竹で足場を組むことを指しています。
竹の足場は香港土産のポストカードにもなるほど香港ならではの風景です。高層ビルがひしめく香港では再開発やビルの修繕など、日々あちこちで大規模な建築作業が行われており、8割を占める現場で竹の足場が使用されています。竹素材のメリットとして、安価で軽量、柔軟なため狭い場所でも組みやすい、現場に合わせ長さを切るなど加工がしやすいこと、解体や撤去がしやすいこと、高温多湿な香港で湿気にも強く劣化しにくい、などが挙げられます。そして伝統技術は文化遺産としての面もあります。竹の足場を組むには「搭棚師」と呼ばれる専門の職人の手が必要ですが、近年は職人の減少や高齢化が懸念されていました。やはり熟練工でないと足場の崩落の恐れもあり、昔のように師匠から弟子へ受け継ぐこともままならないため、安全確保を念頭に香港政府が金属製の足場へ段階的な移行を推奨・義務化を進めている最中でした。ちょうど今年3月、公共事業で新たに建築する場合は、金属製の足場を50%の比率で使用を義務づける方針を出していましたが、今回の件を受け、金属製の足場への移行を計画よりも前倒しで進めることになりました。それを受けて建築業界では職人の雇用が懸念され、また文化的遺産として残すべきだという声もあります。
かつて香港の象徴であったネオンサインも竹の足場と同様に、安全強化のため9割近くのネオンサインが街から姿を消しました。老朽化による看板の落下、ショッピングモールの増加に伴う個人商店の減少、ネオンからLEDライトへの移行等の理由が挙げられます。香港ならではの風景、ネオンサインがひしめき合う雑多な街並みが消えてしまうのは、時代の流れとはいえやはり惜しまれています。
香港にはこの他にも、多くの文化的遺産があります。香港には世界遺産に登録されている場所はありませんが、豊富な無形文化遺産を有しています。
世界夜景遺産
・ビクトリアピークからの夜景:香港の夜景スポットとしてあまりにも有名なビクトリアピークピークからの夜景は、2024年7月に世界夜景遺産に認定されました。
無形文化遺産
・粤劇(広東オペラ):2009年ユネスコ無形文化遺産に登録されました。広東語で行われる伝統的な歌とセリフが特徴で、現在は戯曲中心などで上演されています。
・長洲の太平清醮(饅頭祭り): 疫病退散を祈る大規模な祭りで饅頭タワーが見所です。
・大坑の舞火龍(ファイヤー・ドラゴン・ダンス): 中秋節に大坑で行われる火の龍の舞で、中国の国家級無形文化遺産に登録されています。
・西貢の坑口客家舞麒麟: 幸運を呼ぶ麒麟の舞、中国の国家級無形文化遺産に登録されています。
・港式奶茶(香港式ミルクティー):イギリスの紅茶文化から発展した香港独自の製法で淹れるミルクティーは、2017年無形文化遺産に登録されました。「絲襪奶茶(ストッキングミルクティー)」と呼ばれますが、実際にストッキングを使用しているのではなく、白い布袋に茶葉を入れ、その袋に茶葉の色が染まって茶色くなるためこう呼ばれています。ミルクに高い位置から「撞茶(お茶をぶつける)」することにより、空気を取り込んで滑らかな口当たりと香りが引き出されます。
歴史的建造物
・大館(Tai Kwun): 旧中央警察署などを改修した、歴史とアートの複合施設です。
・香港終審法院(旧最高裁判所): イギリス植民地時代の新古典(ネオ・クラシック)主義建築で、1984年に香港法定古蹟に登録されました。
・黄大仙: 香港で最大かつ最古の道教寺院、その信仰と風習が2014年に中国国家無形遺産に登録されました。
香港はイギリス植民地時代の面影を残す建物が多くあり、民間には中国文化が根付いています。それらの独特で伝統的な文化を保護する取り組みが積極的に行われています。