香港政府統計局は2021年10月~12月までの3か月間の失業率が3.9%で、9月~11月までの3か月間の4.1%から改善したと発表しました。ほとんどの業界において失業率が改善し、特に建設業、小売業、宿泊や飲食などのサービス業、そして教育関係において顕著だったということです。今回の結果は新型コロナウイルスの影響が比較的少なかった昨年末3ヶ月の統計だったため、今後の失業率については多少なりとも第5波の影響を受けそうです。ゼロコロナ政策を続けていた香港も現在は各地で大小規模のクラスターが発生していることから、春節を目前に、飲食店は夜間の店内飲食禁止など営業制限を延長され、年末恒例の花市の中止や、黄大仙の年明け三箇日の開放が取りやめになるなど、各種イベントも自粛傾向にあります。
この2年余り、新型コロナウイルスの流行による環境の変化から、労働環境も左右されて来ました。在宅ワークも今や当たり前となりましたが、雇用契約は今の労働環境の実態に合っているでしょうか。トラブル回避のためにも、雇用契約について見直してみましょう。
一般に香港で従業員を雇用する際、雇用契約書(Employment Agreement)を取り交わします。多くの企業においてはさらに就業規則(Employment Handbook)も制定します。
雇用契約書(Employment Agreement)
雇用契約そのものは雇用主と従業員双方の合意があれば口頭でも契約として成立しますが、言った言わないの誤解や解釈の微妙な差などトラブルを回避するためにも一般的に雇用契約は書面で取り交わします。雇用契約書は通常、雇用主が作成し原本を2部用意します。従業員がサインし1部は雇用主、1部は従業員が保管します。雇用主が雇用条件を変更する際は、従業員に書面で通知し同意を得る必要があり、従業員が同意していない場合その変更は無効となります。
就業規則(Employment Hand Book)
就業規則の作成は義務ではありませんが、雇用契約書同様にトラブルを未然に防ぐため下記のような項目について細かく記載し取り交わしておくことが望ましいでしょう。
・勤務時間
・給与
・賞与やダブルペイ
・有給休暇、産休、その他休暇
・試用期間
・退職、解雇
・福利厚生(MPFや保険)
・悪天候時の対応
・服務規程
・個人情報保護
香港に限らず海外では契約重視ですので、例えば勤務時間が9時~18時と定められている以上、日本の慣習のように朝は少し早めに来て席に着くよう要求したり、18時になってすぐ退社する従業員を非難したりすると、捉えようによっては契約違反となります。また、昨今ではSNSを通じた社内情報の漏洩、社内設備の写真や動画の流出も起こりうることから、IT関連についても細かく制定しておくと良いでしょう。わざわざ書かなくても常識的な大人なら分かっているだろうと思っても、いざトラブルとなった時には明確に書面に書いてあるかどうかが重要になります。
雇用法(Employment Ordinance)
日本の労働基準法にあたるのが香港の「雇用法」です。賃金、法定休日、有給休暇、出産休暇、各種手当など就労に関する基本的な決まりが記されています。正社員、契約社員、パートなど雇用形態を問わず、同一雇用主のもとで週18時間以上、4週間以上継続して労働している従業員が対象となります。雇用法に記されている内容は主に下記のようなものです。
・最低賃金についての規定は、現在HKD37.5円/時です。また、雇用主は給与の締め日から7日以内に給与を支給しなければなりません。
・試用期間は最低1か月です。雇用契約により3ヶ月や6か月と定め、試用期間中であれば解除通知なく雇用終了が可能です。
・雇用主は7日のうち1日は休日とする必要があります。有給休暇は雇用1年後から7日間が付与され、さらに翌年から1年ごとに1日が追加されます。最長は14日間まで付与され、前年に残った有給休暇は翌年に持越しできますが翌翌年まで持越しはできません。
・病欠(Sick Leave)は有給で、入社初年度に毎月2日間、翌年以降は毎月4日間付与されます。雇用法では4日間以上連続で欠勤した場合、医師の診断書があればその期間が有給となります。ただ実際に多くの企業では4日間連続ではなくとも、医師の診断書を提出すれば病欠(Sick Leave)扱いで有給処理しています。企業によっては医師の診断書がなくても体調不良を理由に休んだ場合、病欠(Sick Leave)として扱ったりもします。
・産休休暇は出産前後の10週間が定められており、必要であればさらに4週間付与されます。出産まで40週間雇用されていた場合、過去1年の平均給与の80%が支払われます。出産までの継続雇用が4週間未満の場合は無給です。
新型コロナの影響
香港の雇用法には、新型コロナウイルスに関する規定は今のところありません。従業員や同居家族に高熱など体調不良が見られる場合、或いは新型コロナウイルスに感染したり、濃厚接触者となったりした場合の対応、休業やその間の保障について、また在宅ワークによる各種手当の取り扱い、在宅勤務中の労災の適用範囲など、今の労働環境に合わせて各企業であらかじめ対応を検討し、社内ルールを明確にしましょう。そして従業員の同意を得た上で就業規則の内容を変更、共有しておきましょう。