世界的な水際対策が長引く中、香港の航空最大手であるキャセイパシフィック航空は全従業員およそ3万5,000人の24%にあたる8,500人の人員削減を事業再編計画の一環として発表しました。削減人員の内訳については、香港で5,300人、香港以外で600人、さらに新規採用は凍結、退職者などを合わせ計8,500人が削減されると見込まれています。キャセイパシフィック航空の最高経営責任者は「新型コロナウイルの流行は航空業界に大打撃を与えており、グループの生き残りのため抜本的な再編が必要となった」とコメントしました。どこの国も航空業界は冷え込んでいますが、香港は特に「国内線」が無く全てが香港発着の「国際線」となるためフライトが激減した現在、同社は経営に苦しんでいました。
その一方で、香港はシンガポールとトラベルバブルを設置することで基本合意し、今後は渡航の目的を問わず往来することができます。渡航前のPCR検査が義務付けられますが隔離措置はありません。今回のトラベルバブルは、成功すれば他の国や地域とも将来的にトラベルバブルを合意しやすくなるという狙いもあり、マカオ、台湾、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどとも交渉を行っているということです。日本とは合意に至るのか気になるところですね。
また11月からは、中国本土から入境する香港居民は事前のPCR検査の結果が陰性であれば、これまでのような14日間の強制検疫が免除となります。まずは感染拡大が比較的落ち着いている広東省エリアから適用していき、運用に支障がなければ徐々に対象エリアを広げ、香港と中国本土との往来を段階的に再開させる見込みです。
さらに香港では今後長期的にPCR検査を受けられるセンターを香港島、九龍区、新界、新界西の4つのエリアに創設することが計画されています。これらの施設では自費で検査が受けられるため、海外へ行く前や、身近でクラスターが発生して心配な時など、必要な時に検査を受けることができます。検査費用は約400~600香港ドルということです。
さて、香港の不動産が世界一高いことは有名ですが、今年の新型コロナウイルスによる影響で以前に比べ賃貸料が平均10%ほど下落しました。とはいえ、家庭の収入が減っていることを考えると、賃貸料が多少下落したとしても、もともと高い香港の賃貸料が家計の負担になっていることに変わりはありません。そもそも香港は植民地時代から人口密集地で、狭い土地を上へ上へと活用して高層ビルや高層マンションが乱立するようになりました。2003年のSARS、2009年のリーマンショックなど、一時的に香港の不動産が落ち込んだこともありましたが、時期を過ぎれば再び価格上昇に転じました。
一般的に香港人は独り身にしろ、夫婦にしろ、30代の多くがローンを組んでマンションを購入します。月給の約半分が住宅費用に充てられることも珍しくありませんから、それだけの金額を他人に支払うのか、自分の家のローン返済に充てるかでは意味が全く違います。広東語で「上車(ショーンチェー)(車に乗る)」という表現がありますが、これは「家を買う」という意味で使われます。一旦「車に乗って」しまえば、あとは毎月決まった額のローンの返済をするだけで、賃貸のように急に家賃が上がって困ることも、急に退去を迫られ引っ越し費用が発生することもありません。自分で住むことはもちろん、他人に貸すこともでき、いざとなったら売ることもできる大切な資産となります。香港の場合、不動産価格が多少下落しても、長い目で見れば右肩上がりなのでローン=借金とは限りません。それは新型コロナウイルスの影響で不動産価格が下落傾向にある今でも言えることで、多少下がったとしても不動産としての価値はまだまだ十分にあるでしょう。
逆に「まだ車に乗っていない」場合、徒歩で歩いている状態です。日本語の「自転車操業」というイメージに近いかもしれません。毎月ギリギリでやりくりしていて、働いても働いても給料は家賃に消えていき、マイホームを買うための頭金を貯めようにもなかなか貯められません。以前は住宅購入時の頭金として4割の支払いが必要でしたが、1億円以上する香港のマンションでは4千万を一括で支払うことは簡単ではありません。若い夫婦などは親の援助に頼るケースも多かったようなので、現在は最低1割からでもローンが組めるように緩和されました。
こういった厳しい不動産事情ですが、収入が一定額に満たない低所得世帯は公営住宅を申請することができます。人口の増加から政府は近年さらに公営住宅の建設を増やしたり、郊外の土地を埋め立てたりして住宅の確保に奔走していますが、それでも数に制限があるため申請しても平均約5年は入居待ちとなります。入居先が決まるまで、狭い空間で親と同居したり、賃貸物件に住んだりして待つことになります。
今年は経済的に低迷して香港の不動産価格も落ち込んだように見えますが、世界的に見ればまだまだ香港の不動産は高く競争力があるようです。