香港の所得推移と所得水準

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香港の所得推移と所得水準

香港政府は昨年に続き二度目となる経済支援・香港内の消費喚起策として、一定の条件を満たす18歳以上の香港居民に一人当たり5000香港ドル分の電子商品券を配布しています。昨年は一人につき1万香港ドルの支給が行われましたが、その時は銀行の個人口座への振り込みでした。今回は電子商品券なので、オクトパス(八達通)、Alipay HK(支付寶香港)、Tap & Go(拍住賞)、WeChat Pay HKのいずれかで受け取れます。

オクトパスで受け取る場合は、7月4日~17日の間に申請登録した人から、8月1日から第一回目の2000香港ドル分の商品券を受けとることができます。残高を使い切れば10月1日以降さらに2000香港ドル、12月16日以降にはまたさらに1000香港ドルが受け取れます。

Alipay HK(支付寶香港)、Tap & Go(拍住賞)、WeChat Pay HKを利用する場合は、最初に2000香港ドル(有効期限5カ月)、その次に3000香港ドル(有効期限3ヶ月)が受け取れ、どちらも有効期限内に使用しないと失効します。

今回は現金ではなく商品券で、有効期限もあり貯蓄に充てることができないため、確実な消費に繋がるでしょう。また、普及率の高い交通系ICカードのオクトパスだけでなく、電子決済サービス4社を組み合わせたことで、これを機に中小の小売店でも電子決済サービスを導入するところが増えています。香港のキャッシュレス化はさらに加速して便利になって行きますね。

さて、今回支給される5000香港ドルは日本円でおよそ7万円ですが、香港人にとって、どのくらいの価値があるのでしょうか、6月の記事で香港の物価について取り上げましたが、今回は所得について書こうと思います。

<最低賃金条例>

香港の2021年最新の最低賃金は37.5香港ドル(約525円)です。日本の場合は都道府県によって違いますが、一番高い東京が1013円なので、一見すると香港の人件費はとても安いと感じるかもしれません。

香港で最低賃金条例が可決されたのは2011年で、当時は時給28香港ドルで定められました。その後も2年ごとに金額の見直しにより改定されてきましたが、2021年は初めて据え置きとなりました。

  • 2011年28香港ドル
  • 2013年30香港ドル
  • 2015年32.5香港ドル
  • 2017年34.5香港ドル
  • 2019年37.5香港ドル

実際のところ、最低賃金条例は貧困層を守るためのセーフティーネットであり、実際に最低賃金で労働をしている人は全体の数パーセントにすぎないと言われています。多くの人がフルタイムの正社員として働いており月給制のため、最低賃金条例には最低月額賃金も定められています。2017年から1万3300香港ドル、2019年からは1万4100香港ドルに引き上げられており、それを下回る賃金の従業員に対して、雇用主は彼らの賃金算定期間における総労働時間を記録、12 ヶ月間分保管しておく義務があります。

つまり香港で働くほとんどの正社員は最低月額賃金1万3300香港ドル(18万6200円)以上をもらっていると見なせます。香港は給与から天引きされる社会保険は無くMPFが差し引かれるだけのため、同じ給与額をもらったとしても手取りで受け取る金額は日本より多くなるはずです。

<所得の推移>

業種やスキルなどで個人の給与は大幅に変動しますので単純に給与を比較するのは難しいですが、平均値を手掛かりにおおよその推移を見てみましょう。

2011年頃

最低賃金:時給28香港ドル
大卒の初任給:月給 1万香港ドル前後
給与の中間値:月給1万1000香港ドル

2016年頃

最低賃金:時給32.5香港ドル
大卒の初任給:月給1万2000香港ドル~
給与の中間値:月給1万5000香港ドル

2020年頃

最低賃金:時給37.5香港ドル
大卒の初任給:月給1万6000香港ドル
給与の中間値:月給1万7000香港ドル

注目すべきは、たったの10年あまりで金額の上昇幅がとても大きいことです。日本はこの20年ほど、最低賃金は若干の見直しがありつつもほぼ変わっていません。東京の最低賃金は時給1013円ですが、これは平成元年に定められたものです。大卒の初任給も20年前は19万円あまりで、現在も20万円あまりと、ほとんど変わっていません。

日本と比べると香港の経済発展が特に目覚ましいように感じますが、実際は香港を初め世界において日本の所得はもはや先進国では最下位、かつての発展途上国にも追いつかれ、追い抜かれています。今や世界の給与ランキングでも日本より香港の方が上位にあり、世界的に見ても香港は給与水準の高い地域となっています。

2000年前後から多くの日本企業が中国本土やベトナム、タイに工場を作り、現地の人件費の安さからコスト削減を実現させてきました。しかしそれも20年前に比べると確実に変わってきています。アジアの発展途上国はこの20年でぐんぐん成長し、賃金も右肩上がりに引き上げられて来ました。中国本土も富裕層が増え、人件費が上がり、コロナ前は日本へのインバウンド効果も絶大でした。日本企業がアジア諸国で人件費のメリットを得られるのは時間の問題かもしれませんが、いずれ人件費でのメリットが失われても、次は新たな市場として消費をターゲットにシフトしていくでしょう。