香港の法人税と移転価格税制

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香港の法人税と移転価格税制

香港では11月下旬以降、大規模クラスターが発生するなど新型ロコナウイルスの感染が広がっています。現在の水際対策で外国から戻ってきた香港居民は14日間の強制検疫を受けなければなりませんが、この条例も来年3月31日まで延長されることになりました。SARSの苦い経験を持つ香港は、重要な収入源である観光客の受け入れを先伸ばしにしてでも、感染拡大の抑制を最優先にしていることがよく分かります。

一方で、香港政府は来年1月にも新型コロナウイルスワクチンの供給を始めると発表しました。中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発したワクチンについて750万回分の供給を受けることで合意しており、そのうち100万回分が第一弾として来年1月から香港に到着する見込みです。また、上海復星医薬とアメリカのファイザー、ドイツのビオンテックが共同開発したワクチンも750万回分の供給を受けることで合意しており、同じく来年1~3月には最初の100万回分を受け取る見通しです。イギリスのアストラゼネカからも750万回分を取得する方向で交渉しており、将来的に大部分の香港市民が無料で接種できるよう動いています。来年にかけてワクチンが広く接種されるようになれば流行に歯止めがかかり、経済の回復も期待できることでしょう。

今年はどこの法人も経営が厳しいとはいえ、税金面で見ると香港は日本や諸外国に比べ税率が低く設定されています。本日は法人税に関してご紹介します。

<法人税>
日本の法人税に相当する事業所得税(Profit Tax/法人利得税)の基本税率は16.5%です。
以前の法人税は一律16.5%でしたが、2018年3月より導入された軽減税率で、同年4月以降の会計年度から2段階の税率措置となりました。

・200万香港ドル以下の利益に対する税率は8.25%
・200万香港ドル以上の利益に対する税率は16.5%

税金対策に会社を分散させることを防ぐため、グループ会社がいくつかある場合は、グループ内のうち1社だけが軽減税率の適用対象となります。一律16.5%から半分の8.25%になったことで、中小企業や起業したばかりの企業が軽減税率を享受することができます。
また、パートナーシップを含む個人事業主の場合は下記の税率でさらに低くなります。

・200万香港ドル以下の利益に対する税率は7.5%
・200万香港ドル以上の利益に対する税率は15%

<申告・納税>
課税年度は「2020/2021」などの名称で表され「2020年4月1日~2021年3月31日」が課税期間です。毎年4月に税務局から申告用紙が送付されますので、期限内に記入して申請する必要があります。その後、賦課決定通知書(Notice of Assessment)が送付されるので、その決定額を納めるという流れになります。

<移転価格税制>
移転価格税制は、親会社が海外の子会社に対しての取引を、第三者に対する取引と同様の条件で取引するためのルールです。
日本では2016年税制改正によって文書化ルールが整備されましたが、香港でも同じくOECD移転価格ガイドラインに沿って導入されました。香港にある日系企業は本国側の移転価格文書作成ルールと整合性が取れるように注意しながら準備する必要があります。

香港における最初の移転価格税制は、2018年7月より施行されました。これにより香港政府は、移転価格文書要件を初めて公式に取り入れ、移転価格文書の三層構造要件(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)を採用することを定めました。2019年7月に香港税務局は、税務条例解釈及び執行ガイドラインDIPIN58、DIPIN59、DIPIN60を公表しました。これらはそれぞれ移転価格文書(DIPIN58)、関連者間の移転価格(DIPIN59)、香港の恒久的施設への帰属利益等を含めた移転価格に関連するガイドライン(DIPIN60)のことです。

特にDIPIN58 ですが、もし文書で取引価格に公平性があることが証明できなければ、利益計上漏れとして申告額を修正しなければならず、後になってから追徴課税される可能性も出てきます。そのため企業はマスターファイル、ローカルファイルを作成し、7年保存する必要があります。また、マスタ―ファイル、ローカルファイルは事業年度末から9ヶ月以内に作成しなければなりませんが、要請がなければ提出の義務はありません。文書は移転価格調査の際には企業側の努力やコンプライアンスに対する姿勢を示す材料になり、文書化を行っていないと50~75%の加算税が課せられることになりますので注意が必要です。

ただし小規模の法人が文書を作成するには負担が大きいため免除基準があります。

①事業規模 (下記の2 つ以上を満たす場合、マスターファイルの作成が免除される)

• 年間総収入…4億香港ドル以下
• 総資産額…3億香港ドル以下
• 平均従業員数…100 名以下

②関連者取引の規模(取引種類の関連者取引金額が下記を満たす場合、文書化が免除される)

• 有形資産取引… 2.2億香港ドル以下
• 金融資産取引…1.1億香港ドル以下
• 無形資産取引…1.1億香港ドル以下
• その他の取引…4400万香港ドル以下

年間の連結総収入が68億香港ドルを超える香港居住の親会社は事業年度末から12ヶ月以内に国別報告書(CbCレポート)の提出が必要です。国別報告書は、移転価格調整の検討を行う初期段階の審査で使用されるため、香港において国別報告書を提出する必要のある納税者で、データの異常値が認められる場合は、明確な説明ができるよう事前に準備しておくことが求められています。

今回は香港の法人税と移転価格税制についてご紹介をさせて頂きました。香港法人に関するご相談等がございましたら、こちらからお気軽にお尋ね下さい。