9月15日の報道によると、カナダのフレイザー研究所が発表した「世界経済自由度2021年度報告」において、香港が世界で最も自由度の高い経済体であることが認定されました。この報告は2019年のデータを元に評価されているため、その後の社会情勢やコロナ禍は反映されておらず、来年や再来年の報告書においても香港が首位を維持しているかは分かりません。しかしながら今回18位だった日本と比べると、香港の方が日本よりも経済的自由度が高いと言えそうです。
さて、長引くコロナ禍に伴い、香港から日本へ本帰国される日本人が増えてきました。先に帰国させた家族と離れ離れの生活が長くなり本帰国を希望される方、企業側が駐在員を本帰国させる方針を出すなど、帰国に至る理由や背景は様々です。いざ本帰国となると色々な手続きや準備が必要となりますが、今回は特にMPF(Mandatory Provident Fund(略称:MPF、強制積立年金)について取り上げたいと思います。
香港で就労している人は、香港人であれ外国人であれ、また駐在員でも自営業でも現地採用でも、基本的にMPFに加入することが義務付けられています。そして通常は65歳になると積み立てながら運用してきた年金を一時金として受給することができます。しかし実際のところ、大部分の外国人が香港で定年まで就労し続けることは稀で、多くの方がいつかは香港を離れると思います。そのため外国人が香港で就労し、何らかの理由で香港を離れ、自国に帰国したり他国へ引っ越したりする際には65歳になる前であってもMPFを解約することができ、積み立てた分の金額を引き出すことができます。
この途中解約ができるのは生涯一度きりに限られています。いったんMPFを解約して本帰国したものの、再び香港に戻って仕事をすることになった場合、次に加入したMPFは途中解約ができません。その際は65歳まで待って受給することになります。
ほとんどの人は本帰国の前にMPFを解約しますが、もし香港に再び戻って仕事をする予定や希望があるなら、すぐに解約せず置いておくことも可能です。前述の通り二度目のMPF加入時には65歳まで受給できませんので、次の2つの選択肢について考えてみましょう。
- MPFを途中解約して運用金額を引き出す。
- MPFの積立は停止し、運用のみ続ける。
MPFは毎月積み立てた金額がそのまま貯まっていくのではなく、ファンドの運用によって変動しています。ファンドの種類、銘柄、分配率などは自分で決めることができ、また途中で自由に変更することもできます。香港人の中には一般的な株への投資と同様にMPFの成績を常に気にしながら、頻繁に運用内容を変更している人も見られます。ファンドはハイリスクなものからローリスクなものまで様々ですので、たまたまMPFを解約しようとした時期に元本割れだった場合やあまり増えていなかったので様子を見たいという場合は、今は引き出さずにしばらく運用を続けるという選択もできます。
さてそれでは、解約手続きについて紹介します。
<解約に必要な書類>
- FORM MPF(S)-W(O)
CLAIM FORM FOR PAYMENT OF MPF ACCRUED BENEFITS(BENEFITS) ON GROUNDS OF PERMANENT DEPARTURE FROM HONG KONG
香港からの永久離脱を理由とした、MPF未払い給付金(ベネフィット)の支払い請求書 - FORM MPF(S)-W(SD2)
STATUTORY DECLARATION FOR CLAIMS FOR PAYMENT OF MPF ACCRUED BENEFITS (BENEFITS) ON GROUNDS OF PERMANENT DEPARTURE FROM HONG KONG
香港からの永久離脱を理由とした、MPF未収給付金(ベネフィット)の支払い請求のための法定申告書 - 香港IDカードのコピー
- パスポートのコピー
- IRD(香港税務局)からのLETTER OF RELEASEのコピー
- 海外での決済に関する情報(振込先の銀行口座)
解約に必要な書類は、各運用会社のHP上でも入手できます。
<手続きの流れ>
- 帰国を決めたらまずは個人所得税の精算をします。
勤務先で「IR56G」(香港から出国しようとしている従業員に対する雇用主の通知)を依頼します。次に灣仔の税務署へ本人が行って提出し、所得税を精算します。支払う必要があればその場で支払います。完了後、「LETTER OF RELEASE」が発行されます。これが上記の必要書類にある5です。 - 必要書類を揃え、最寄りのHome Affairs Department(民政事務局)へ行きます。特に予約は必要ありません。
- 公証人の前で「宣誓」と言う儀式を行います。具体的には英文(または中文)の宣誓文を公証人の前で読み上げます。内容としては「私は香港を永久に離れます。このことに虚偽はありません。提出した文書の内容全てを理解しました」というものです。英語にしろ中国語にしろ普段あまり使わないような単語が出て来ますが、流暢である必要はなく、たどたどしくても何とか読もうとすれば特に問題にはなりません。
- その後、申請者は書類FORM MPF(S)-W(SD2)に署名し、公証人が署名、民政事務局が捺印します。
- MPFの運用会社に、Form MPF(S)-W(O)、FORM MPF(S)-W(SD2)(上記4で捺印されたもの)、香港IDカードのコピー、パスポートのコピーを送ります。
運用会社はその書類を受け取ってから早ければ数週間~約2ヶ月後に、申請者の指定した銀行口座に振り込みを行います。 受取は日本国内の銀行の口座を指定することもできます。もし香港の銀行口座へ振り込んでもらい、さらに本帰国の前に銀行口座を解約する予定がある場合は、余裕をみて手続きのスケジュールを立てると良いでしょう。