北部都市圏発展計画

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北部都市圏発展計画

進む香港北部の開発と中国との関係

香港政府は「ゼロコロナ」を掲げ、世界的に見ても非常に厳しい検疫措置を続けています。香港内では新規感染者ゼロの日が続くなど対策による高い効果が得られている一方で、経済団体からは緩和を求める声も出ています。国際金融都市の香港だけに、海外との往来に厳しい入境制限や、期間の長い隔離措置が継続されると経済にも影響が出てきます。また香港には外国人居住者も多く、もう2年近く香港内に留まり、自由に母国との行き来が出来ないでいると、家族や親類と会えないことにストレスに感じる人も出てきています。

そんな中、10月27日に香港政府は、「新型コロナウイルス対策を強化し、中国本土の基準に追いつき、中国本土との往来再開を目指す。海外と中国本土からの隔離免除の特例をほぼ撤廃する。」と今後の方針を発表しました。これまであった隔離免除の特例とは、領事館関係者など政府関係者、飛行機の乗務員、船員、上場企業の幹部などの入境者が隔離なしで香港に入境できるというものです。さらにコロナによる入院患者は退院後も14日間の隔離が必要になりました。

発表のように、香港政府は本土との往来再開を最優先課題としています。そのためには中国本土と同様の防疫措置を目標にしており、今後も対策は厳しくなりそうです。背景には中央政府の意向など政治的な事情もあるようですが、実際にコロナ前の香港は本土と密接な関係にあり、距離的にも非常に近く、ビジネス、中国本土人と香港人の結婚、子どもの越境通学など、当たり前のように香港と中国本土の国境を行き来して生活してきました。海外との往来再開も望まれていますが、やはり身近な中国本土との往来再開が最優先のようです。

これとは別に、10月に香港政府は「北部都市圏発展計画」(北部計画)という開発計画を発表しました。これまで開発を避けてきた香港の北部と、それに隣接する中国本土の深圳とを一体した都市開発を行うという計画です。この計画によりおよそ90万世帯、200万~250万人が居住できる住宅も開発予定です。これは単なる香港内の開発ではなく香港と深圳の両方にまたがる、香港の北部地域を中心とした香港側と深圳側の両方の地域を一体化して開発するものです。

香港の北側といえば、マングローブが自生する湿地帯が広がっているなど、中心部の喧騒からは想像もつかないほど、多くの自然が残るのどかな場所です。香港の原住民が先祖代々の土地を守りながら一族で住む村も多く残っています。そして国境近くまで行くと川の向こうには深圳側の高層ビル群を間近に望むことができ、夜には香港の夜景に負けないほどのネオンが見渡せます。国境に沿って煌びやかな深圳側とは対照的に、香港側の北部エリアが開発されなかった理由は、これまで政府の管轄で開発が制限されてきたからです。香港では植民地時代に中国本土からの不法移民や違法行為を防ぐため、国境周辺のおよそ28k㎡は1951年に「香港辺境禁区/ Frontier Closed Area」とされ立ち入り禁止となりました。禁区内に居住している住民以外は香港人であっても許可がないと立ち入りできず、外国人は基本的に立ち入りできません。もちろん本土と行き来するための越境ポイントである羅湖などを一般人が決められたルートに沿って通過する分には特別な許可は不要です。返還後、中国本土と香港の格差も和らぎ、中国本土から香港へ自由に越境できるようになってきたことから禁区も段階的に縮小されてきています。これまで手付かずだったため北部エリアには豊かな自然が残っており動植物の生息地となっているため、今後は自然保護にも考慮しながら開発が進められるようです。

さらに北部計画によって出入境の手続きも変わる見込みです。現在の香港と深圳の間には出入境検査と税関がそれぞれ設置され、両方において出入境手続きが必要になっています。しかし北部計画によれば香港と深圳の間に新たな出入境施設を作り「一地両検」を実施できるようになります。

そしてご存じのように北部計画よりも先に、数年前から「大湾区」という大経済圏構想が出ていました。香港、マカオ、広東省の9つの自治体(広州、深圳、珠海、佛山、恵州、東莞、中山、江門、肇慶)が「大湾区/グレーターベイエリア」に属しています。香港にとって身近な広東省南部の地域と協力し合うことは文化や言語面でも馴染みやすく、近年目覚ましく発展しているこの地域と共同して経済圏として大きく成長するだろうと相乗効果が見込まれていました。しかしコロナ禍で国境が浮き彫りになった今、北部計画によりまずは香港と深圳の国境のハードルを低くすることが先決になったと言えそうです。

コロナが本格的に流行る前には高速鉄道や橋の建設など大湾区形成のインフラが整ってきていました。大湾区へのテクノロジーやイノベーションにおける発展には各種の資金援助があることからコロナ禍にもかかわらず青年起業家たちが意欲的に大湾区を目指しています。今後もさまざまな政策が出てきて香港と隣接する中国本土との関係は密になり、ひいては大湾区の発展へ繋がっていくことでしょう。