香港の遺産相続

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香港の遺産相続

3月に入りすっきりしない天気が続いていた香港ですが、3月下旬ごろから湿度の高い春がまた巡ってきます。香港の雨季は4月から9月まで続き、これから徐々に蒸し暑いシーズンに突入します。季節の変わり目、体調に気を付けて過ごしたいですね。

さて、香港在住の日本人の方は、おそらくご自分名義の香港の銀行口座を開設されていると思います。その他、日本より利回りの良い保険商品、海外投資商品、香港の不動産を購入されているかもしれません。こういった個人資産ですが、もしご自分が亡くなった場合、どうやって身内に相続されるのでしょうか。日本にいる家族はもちろん、香港在住の方でも相続に関してご存じの方は意外と少ないものです。

遺産相続といえば日本の場合は、亡くなった方の財産は基本的に相続人全員の財産とみなされます。遺言書があればその内容に従って財産が分割され、遺言書がない場合は相続人が集まって分割協議をして遺産を分配します。よほど相続人同士が揉めない限り、裁判所を通すことはありません。

しかし香港の場合は、身内における相続争いの有無に関係なく、弁護士による「Probate(プロベイト・検認)」が義務づけられています。プロベイトとは、遺産相続をめぐる法的プロセスのことを指し、故人の遺産を正当な相続人に渡すことを目的とします。もっと具体的に言うと、プロベイトとは「遺言執行人(executor)」又は「遺言管理人(administrator)」を選任し、相続財産の管理・処分を法的に行うことを指しています。香港だけでなくアメリカ、カナダ、イギリス、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドでも遺産相続にはプロベイトが必要とされています。

もし日本や香港にいる故人のご家族が、故人の預金口座の名義変更や口座解約をしようとすると、金融機関からプロベイトを経ていることを証明する文書「Grant of Letter of Administration(遺産管理状)」の提出を必ず求められます。もし勝手に動かすと罰金刑、禁錮刑が科せられることもあるため、香港に資産がある方はもちろん、いつか相続人となりうる身内の方にもプロベイトのことをあらかじめ知っておいてもらいたいものです。

<プロセス>

それではプロベイトの簡単な流れを説明します。
まず、相続が発生したら高等裁判所内のプロベイト裁判所(遺産承弁署/Probate Registry)に申し立てをします。
※故人の財産は、この時点で遺産財団(Estate)に帰属するので、勝手に動かすことはできません。

①遺言書がある(Grant of Probate/遺言認証)、
かつ、遺言書に執行人の記載がある場合は「遺言執行人(executor)」を承認します。

②遺言書があるが執行人の記載がない場合や遺言書が無い場合は「遺言管理人(administrator)」を認定します。
※この決定により、「遺言執行人(executor)」や「遺言管理人(administrator)」が相続財産の管理・処分について権限を有することになります。

財産目録の作成・債務整理・相続人の確定

裁判所による財産の分配許可

遺産分配と裁判所への報告

この法律は香港に所在する財産について適用されます。外国人に限らず、香港居住の香港人が相続する場合でもプロベイトは必要です。日本人である故人が香港に居住している場合でも、日本に居住している場合であっても、財産が香港にあればプロベイト手続きは必要になります。もし相続人が日本など海外にいる場合、香港の弁護士を代理人にすると香港の裁判所に出向く必要はありません。

遺言についてですが、日本居住の日本人の場合は、いわゆる直筆の遺言書ではなく日本の公証人役場で作成された「公正証書遺言状」があるとスムーズです。香港居住の日本人の場合は、遺言書は香港で書かれたものが良く、海外で作成するなら英語で作成されたものが有効です。遺言書には18歳以上の証人2名の署名が必要です。

多くのケースでは、故人の配偶者や子どもが法定相続人として申立てを行うことになり、実際には、香港の弁護士に委任状を出し、代理人として申立手続きを行うことになります。香港人であっても一般的にプロベイト手続きは弁護士に依頼します。日本でも慣れない遺産相続のことですので、日本人が香港でプロベイト手続きをする場合は、日本の事情にも詳しく経験豊富な弁護士に依頼すると良いでしょう。プロベイトは年単位で長引くので、費用がかかっても専門家に手伝ってもらう方が安心です。

また、遺言が無い場合の相続優先順位や遺産額については、下記が定められています。

1)故人に子や親がおらず、配偶者のみの場合、遺産は全て配偶者が相続します。
2)配偶者と子供が残された場合、まず配偶者が50万香港ドルを相続し、その残りは配偶者と子どもが半々とします。
3)子どもがなく、配偶者、親、兄弟がいる場合、まず配偶者が100万香港ドルを相続し、さらにその残りの半分を配偶者が相続し、その残りを親と兄弟が分割して相続します。
4)故人に配偶者がいなければ、子、親、兄弟、そして叔父、叔母等の順に相続します。

※相続人がいない場合は、遺産は香港政府に帰属します。

是非、香港における個人資産ともしもの時の相続人について整理してみてくださいね。