香港のスピード感

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香港のスピード感

依然として世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID-19 )ですが、香港では3月中旬から感染者数が急増し、3月28日(土)時点の感染者数は583人となりました。

香港では水際対策をより一層強化し、3月25日からは飛行機で到着した全ての香港非居住者の入境を禁止、中国本土・マカオ・台湾から入境する香港非居住者は過去14日間に海外滞在歴がある場合は入境禁止となりました。入境した者に対しては14日間の強制検疫が行われ、監視用の電子リストバンドが配布されています。ここ最近の感染者のうち約9割が海外からの帰国者やその濃厚接触者で、中国以外の地域における感染爆発の影響が香港にも飛び火している状況です。

香港政府は毎日のように新たな感染対策を出しており、3月27日(金)にキャリー・ラム行政長官から発表された新たな防疫措置は下記の通りです。

1.香港国際空港から入境する全ての者に対してウィルス検査を実施。

2.3月29日(日)午前0時から14日間、公共の場所において4人を超える人数での集まりを禁止。(ただし職場、議会、婚礼などを除く)

3.3月28日(土)午後18時から14日間、下記の措置を取る。

1)屋外のスポーツグラウンド、バーベキュー場、子供向け遊具施設など、

屋内のゲームセンター、ジム、劇場、アイススケートリンクなどの施設を閉鎖。

2)レストラン、バー、カフェ等の飲食店では以下の規制を遵守すること。

・客席の占有率は店内50%以下のこと。

・テーブル間は1.5m以上空けること。

・1テーブルを4人以上で利用しないこと。

・食事中以外は必ずマスクを着用すること。

・店側は顧客の体温を検査すること。

・店側は消毒液を提供すること。

飲食店での規制について、この背景にはバーなど酒類を提供する飲食店から感染者が出たことが関係しています。当初は「飲食店における酒類の提供禁止」という案が持ち上がりましたが、業界から強い反発が出たため却下されました。懸念すべきは飲酒ではなく複数人の濃厚接触とされ、今回の措置が取られました。

世界中どこの国でも未曾有の事態に戸惑いながら、最善の防疫対策を打っている中、香港の対応はとにかく「早い」という印象があります。「禁酒令」の案が最初に発表されたのが3月23日の会見で、その後すぐ関係者や飲食業界からの大批判を受け、別の形の対策として3月28日から適用となりました。飲食店での集団感染が発覚してからわずか数日です。28日午前0時を過ぎると早速、警察官が飲食店を見まわり、テーブル同士の距離をメジャーで計測する光景も見られました。

香港に入境した隔離対象者に義務付けられた電子リストバンドの装着に関しても、香港は非常に短期間で実用化しています。電子リストバンドは内部のICチップがスマートフォンと連動して、隔離対象者の位置確認が衛生省と警察で把握できるようになっており、異常を検知した場合は当局にアラートが送信されるようになっています。香港政府は2月からすでにこの電子リストバンドの実用に備えており、わずか1か月の間に量産体制まで整えました。

先に感染の中心地だった中国では封鎖中の市民を監視するためドローンを活用したり、スマートフォンの位置情報を利用して個人の行動歴を把握したり、テクノロジーを駆使したデジタル監視を導入し世界を驚かせました。海外からは当初プライバシーの侵害と疑問視される声もありましたが、感染経路の特定に有効なため現在は他国も追従する形となり、香港でも電子リストバンドが検討され早期に導入されました。

しかし実用開始から間もなく、この電子リストバンドを装着している隔離対象者から「簡単に外せる」「専用アプリをインストールしても稼働できない」「ホットラインに電話が繋がらない」などのトラブルが寄せられました。一部の人は電子リストバンドを装着したまま外を歩き回り、市民から通報され逮捕されるという事態も起きています。香港では罰則も明確で、検疫違反者には罰金2万5千ドル及び禁錮6か月の罰則が科されます。今後、電子リストバンドは改善を要し、市民の監視の目も光るようになり、隔離対象者に良識と自律を求める声も高くなっています。

新たな対策が改善を要するとしても、こういった流れはいかにも香港らしいと感じます。香港人は「早さ」を重視するためまずは行動し、後のことは走りながら考える傾向があるのでその先で起こる不具合はその都度、対応すれば良いと考えます。日本は協議や検討を重ね、あらゆるリスクを考え抜いて決断を下すと、それを簡単に覆すことはありません。もし日本式ならリストバンドの精度は高いかもしれませんが、人権の協議もなかなか結論に至らず、投入される時期はもっと遅くなるのではないでしょうか。どちらも一長一短ですが、今回のように周囲の状況が刻々と変わる環境では、対応策の完璧さよりも、香港のようにスピード感を持って柔軟に対応していくことも必要だと思います。