香港のマスク事情

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香港のマスク事情

5月になり初夏の香港の気温は一気に30度を越え暑くなってきました。フィリピンの東には台風1号が発生しており、週末にかけて北上してくるため香港の天気も不安定な予報です。香港で最も湿気に悩まされる鬱陶しい季節ですが、香港大学の研究チームは、新型コロナウイルスが摂氏4.4度ほどの時に最も安定しており、摂氏22度になると弱まると報告しています。真夏に向け紫外線が強く高温多湿の環境ではウィルスの感染力が弱まるのではと期待される声もあり、冬場に比べると感染力は多少弱まるのかもしれません。ただ世界中どの気候の地域でもウィルスが流行している現状を見ると、それほど差は見られないようです。気温が高くなってもマスクは手放せないので、外出時は熱中症や肌荒れにも注意が必要です。

さて、5月13日現在、香港内の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数は1048人、そのうち入院中が53人、退院者数は991人となっています。ここ最近はパキスタンやイギリスから帰国した人から新型コロナウィルスの感染が数名確認されたものの、香港域内で新規の感染者は22日連続でいませんでした。しかしながら12日になって、海外渡航歴のない60代女性の新型コロナウィルスの感染が確認されました。専門家は28日間連続で新たな感染者が出なければ香港の市中感染は封じ込めができたと判断するとしていたため、期待が高まっていましたが今回はこの基準をクリアできませんでした。各種制限の緩和が発表され香港全体に緩和ムードが広がっていただけに、感染の連鎖がまだどこかで起きていると判明したことは衝撃です。やはり多くの専門家が指摘しているように感染者が減少しても気を緩めてはならず、長期に渡って感染者の増減が繰り返されることも覚悟しておく必要がありそうです。

先日から香港では新たな感染者が出ていないことを踏まえて、公共の場で5人以上集まることを禁止する「限聚令」と呼ばれる規制については9人以上に緩和され、スポーツジムやゲームセンターなど営業に制限を設けられていた施設の営業が再開されました。5月10日は母の日だったため、久々にレストランでは1テーブルを最大8人で囲う家族連れが多く見受けられるなど、ウィルスの流行以前と比べて約半分ほどの活気が戻ってきたばかりでした。

香港政府は5月に入って「60回洗える銅入りマスク(銅芯抗疫口罩/CU Mask)」を希望者に無料で配布しています。このマスクは抗菌性のある銅の成分を含み、交換可能なフィルターが入った6層構造で、洗えば60回使用可能ということです。希望する市民はインターネットで申請後、2週間以内に郵便局から配達されます。インターネットを利用しない場合は郵便局で直接受け取ることもできます。

この「60回洗える銅入りマスク」は、もともと香港理工大学が研究開発したもので政府の支援によって改良され完成しました。他にも少し前に日本でも話題となった「香港マスク/HK Mask」があります。これは医療用N95マスクに匹敵するほど高機能な効果が得られると香港の化学博士によって考案されたものです。作り方は一般公開されており誰でも手作りできるということで、香港のみならず海外でも注目されました。さらに、市販されている不織布マスクも4月頃から海外製のものに混じって香港製が見られるようになりました。インターネットショッピングサイトのHKTVMallなど、もともとマスク生産とは関係のない企業がマスクの生産に参入して実現しました。

香港ではかつて造花や被服など製造業がさかんな時期もありましたが、現代の香港は観光業、金融業、不動産業が盛んで、香港内で製造している製品はほとんどありません。香港はフリーポートで貿易の中継地でもあるため、香港で売られている日用品、食品、家電製品、家具などほとんどのものは海外製品です。中国本土と違って香港内での「モノづくり」は、もはや考えられていませんでした。

日本でもマスクは主に中国からの輸入に頼っていたので、今回は輸入が滞り窮地に立たされたことから国内生産が検討され、ご存じのように現在は国内にあるシャープの工場で生産されています。香港でも同じ状況とはいえ、もともと工場が少なく場所や設備が整わない香港で生産しようと決めたことは日本よりもハードルが高いにも関わらず、非常に柔軟で思い切った判断だったと思います。

新型コロナウィルスの影響で日々、緊張と緩和が繰り返されておりまだまだ予断を許さない状況ですが、行動を起こしている人は身近にもいます。5月8日、香港日本料理店協会、香港日本人ゴルフソサエティーが中心となって集めた寄付金29万香港ドルで防護服3000着を東京・京都の病院、そして大阪市役所へ送ったということです。日本と香港は双方の水際対策によって行き来することが難しくなっていますが、この困難を少しでも打開するための技術や新たなアイデア、我々が自分や社会のためにできることはまだまだあるのだと感じます。