データ保護規制の強化

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データ保護規制の強化

香港政府は8月24日、映画の検閲を強化する条例改正案を発表しました。国家の安全を守るためとし、可決すれば今後公開される作品だけでなく過去に上映された作品についても、政府に批判的な内容を含んでいるもの、国家の安全に悪影響を及ぼすと判断されるものは上映が禁止になる対象となります。無許可の映画を上映すると最高で禁錮3年が科されます。これを受けて今後は制作側も自主規制する方向にならざるを得ず、香港の映画産業において表現の自由が制限されることになるのではと懸念の声も上がっています。

2020年6月末に施行された香港国家安全維持法からすでに1年が過ぎましたが、香港内では政治活動や言論に対する各方面での規制が強くなっており、少し前の自由な香港に比べると、この約1年で社会は大きく変化しました。

香港政府は2019年の抗議活動の際に広がったドクシング・doxing(他人の個人情報をインターネット上でさらす行為)を問題視しており、その対策のために必要として、今年5月にデータ保護法の改正を提案しました。2019年当時、民主化のデモが激化するにつれ、一部のデモ参加者により警察官や政治家、ジャーナリストなどを対象に、個人の住所や子どもの通う学校名などの個人情報がネット上のあちこちで公開されました。法改正により違反者には最高5年の懲役(禁錮刑)、最大約100万香港ドルの罰金が科される可能性があります。

これを受けてアジアインターネット連盟(AIC:ASIA INTERNET COALITION)は、香港政府が検討している個人情報保護法の改正に対して香港政府に書簡を送り、懸念を示しました。AICとは、Facebook、Google、Twitter、Apple、Amazon、LINE、楽天、Yahoo!、 eBay、LinkedInなどの企業が参画している、インターネットビジネスを展開する企業の国際連盟です。AICは、ネット上におけるプライバシーの保護には理解を示しているものの、「違法にあたる行為の定義が曖昧だ」と指摘しました。意図せずネットに投稿した内容により刑事罰を科せられる恐れがあると懸念しており、香港政府が条例改正を進めた場合、連盟企業は香港でのサービスの提供を控える可能性もあるとしました。香港で2020年6月の「香港国家安全維持法」が施行されてすぐの頃、Facebook、Twitter、GoogleなどアメリカのSNS大手三社が、政府当局への利用者情報の提供を一時停止したという経緯もあります。

一方、中国本土におけるインターネット事情はまた特別で、世界的にも厳しい規制が敷かれています。中国には「金盾」(グレート・ファイアウォール)という情報管理システムがあります。広く「金盾計画」は、個人情報の管理、アクセス情報の監視、ネットユーザーの情報収集など多岐に渡るもので、SNSやEメール、電話の傍受などが含まれます。そしてその計画の一部としてインターネット検閲があります。中国本土の国民だけでなく中国本土に在住する外国人を含む中国国内のインターネットユーザーは、政府当局にとって悪影響があるとされる情報が閲覧できないようになっています。日本では一般的に利用できるSNSやサイト:Facebook、Instagram、Twitter、Youtube、LINE、Google、Yahoo!は中国本土では基本的に利用することができません。以前はそれでもVPNを利用して規制回避が可能だったのですが、サイバーセキュリティ法によりさらにVPNの規制が強化されたため現在ではほとんどのVPNが利用できない状況になっています。

海外のサイトにアクセスが禁止されていることに加え、国内のサイトであっても一般的に検索エンジンから検疫対象のワードで検索した場合、インターネットの利用を監視され、規制されるという恐れがあります。検疫対象のワードは10万個以上あると言われ、歴史上の特定の事件のこと、政府に関することなど様々で、またワードが対象から外されたり新たに対象となったりすることもあるため常に動きがあるようです。

このような環境の中国本土ですが、独自のインターネットサービスが発達しており、言い換えれば国内企業の成長にもつながっています。検索エンジンのBaidu(百度)、動画サイトではYouku(優酷)、最近ではBilibili動画も人気です。日本で多くの方が利用しているインスタントメッセージアプリのLINEに匹敵するWechat(微信)も普及しています。厳しい規制がある一方で、中国市場は独自の発展を遂げており、国内企業の育成が進みました。中国は人口の多さから、国内のシェアを広げるだけでも世界のシェアの大半を占めることになります。外国企業が中国国内において販促プロモーションする場合も、こういった国内のメディアを通して行われています。

香港における規制強化が徐々に進むたびに、その対象となる基準の曖昧さに動揺の声が上がります。香港では今後も様々な規制が設けられ、映画の検閲のように過去に遡って規制対象となるようなケースも出てくるかもしれません。これらは世の中の出来事によって左右されるものなので、常に最新の情報を入手するようにしながら、柔軟に対応していくようにしたいものです。